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第13回

2021年度「東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム」開催報告(上)

 2021年度の『東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム』は、2021年10月15日(金)に『東京・サステナブル・ファイナンス・ウィーク』内で開催されました。本フォーラム及びウィークは昨年度に引き続き2回目の開催になります。
 フォーラムの冒頭の主催者挨拶にて、小池都知事は、東京都ではコロナ禍を乗り越え、その先に持続可能な成長を実現する「サステナブル・リカバリー」の視点で政策を展開しており、その鍵を握るのは金融であると言及しました。そして、グリーンファイナンスの活性化に注力するためにも「Tokyo Green Finance Initiative(TGFI)」を推進し、幅広い関係者と連携しながら具体的な行動を推し進めていく決意を表明しました。
 本フォーラムでは、こうした東京都の取組を踏まえ、加速化するサステナブルファイナンスにおける世界の状況や取組について、各ご登壇者からお話いただきました。その講演内容をご紹介します。
 なお、当日の様子はこちらより動画で視聴いただけます。
 また、各ご登壇者の資料は プログラムページに掲載しております。





【基調講演】

持続可能な開発目標(=SDGs)達成のためのファイナンスの役割と可能性について
革新的ファイナンス及び持続可能な投資に関する国連事務総長特使
水野 弘道氏


 気候サミットやG7、G20など国際的なリーダーたちが集まる会議において、サステナブルファイナンスは最重要課題と認識されており、中でも民間金融の力を活用して変化を加速させようという議論が活発になっていると解説しました。

 日本のサステナブルファイナンスの環境は改善しつつある一方、2020年の世界のグリーンボンドの発行額は120兆円超、サステナブルファイナンスボンドなどを含めると150兆円を超えるのに対し、日本はようやく1兆円を超えた状態であり、東京の市場を世界のサステナブルファイナンスの中心にするという目標の実現に向けてはさらなる成長が必要であると示唆しました。

 この「東京・サステナブル・ファイナンス・ウィーク」を機に、民間の側から政府や東京都、市場に必要な環境整備を求めると同時に、政府や東京都などはそれに先んじてルール設定をしていくことが重要であると指摘するとともに、日本そして東京がトランジションを加速し、日本に集まった資金を基に世界にサステナブルなビジネスを展開するという、正の循環が生まれることを期待していると語りました。




【講演①】

ネットゼロエコノミーにおける情報開示の重要な役割
TCFDタスクフォース事務局 ブルームバーグ 公共政策担当副会長・特別顧問
メアリー・シャピロ氏


 TCFDは、企業の気候関連財務情報開示を目指し2016年に設立、その翌年にガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標という4つのテーマに重点を置いた提言を発表し、この提言は88ヵ国・2,500社以上の組織と、1,000社を超える金融機関が支持していると説明しました。日本は、TCFDを支援する400を超える組織があり、世界をリードしていると語りました。

 TCFDが直近発表した「第4回TCFDステータスレポート」では、TCFDの提言に沿った開示は9ポイント増で、2018年から2019年の成長率の2倍を上回るとともに、2020年の1年間で1,000を超える新しい組織がTCFD支持者になったと報告、この成長は重要な政策発表やTCFDに準拠した報告を必須とする社会の流れなどに支えられたものであり、企業による開示は任意から義務化へとパラダイムシフトが起こっている兆しであると分析しました。

 また、TCFDは企業がより一貫性のある指標や低炭素経済への移行計画などを開示するのに役立つ新たなガイダンスを発表したことを紹介。TCFDに準拠した開示は、ネットゼロの目標を達成するために不可欠なイノベーションを引き起こし、加速させるのに役立つと締めくくりました。




【講演②】

サステナブルファイナンスに関するJPXの取組み
株式会社日本取引所グループ 取締役兼代表執行役グループCEO
清田 瞭氏


 日本取引所グループ(以下、JPX)が2021年6月に実施したコーポレートガバナンス・コードの改訂におけるポイントについて解説しました。ポイントとして、①取締役会の機能発揮、②中核人材における多様性の確保、③プライム市場においてはTCFDまたは同等の国際的枠組みに基づき気候変動による情報開示を質量ともに充実することの3点をあげました。

 次に、JPXの取引所運営会社としてのサステナビリティ推進に関する取組みについて紹介。上場会社のESG関連の取組支援、投資家へのESG関連商品の提供という2つの大きな柱があると述べ、それぞれに関して具体的な施策について説明を行いました。

 最後に、上場会社としてのJPXのESG課題への施策について取り上げ、気候変動への対応としては2024年度までにグループ全体でのカーボンニュートラル達成を目指すことを2021年7月に公表し、東証ビル・大証ビルの電力契約を再生可能エネルギーに切り替えたほか、2022年度にはJPX自らが再生可能エネルギー発電設備を保有し、再生可能エネルギーを創出することで、環境課題の解決に向けてより積極的に対応していくと述べました。




【講演③】

GPIFのESG投資
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長
宮園 雅敬氏


 年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)は、世界市場をポートフォリオに取り込んだユニバーサルオーナーであると同時に、100年という時間軸で設計された公的年金財政の下で長期的な観点から年金積立金を運用する超長期投資家という特性ゆえにESGに関わるリスクがポートフォリオに負の影響を及ぼす可能性があることが、GPIFがESG投資に積極的に取り組む背景であると述べました。

 GPIFのESG投資の中心はESG指数に基づくパッシブ運用であり、2017年の投資開始以来、国内株式で4つ、外国株式で3つの指数を選定して投資を行っており、投資残高は2021年3月末時点で合計10.6兆円に上ると言及。2018年からは気候変動に関連して2つのカーボン・エフィシェント指数への投資を開始し、投資残高は合計4.4兆円になっていると語りました。

 GPIFのESGに関する取組みについては、毎年「ESG活動報告」を作成し、中でも気候変動についてはTCFDの提言に沿った詳細な気候関連財務諸表を開示していると紹介。TCFDに注力する意義については、アセットオーナーとして積極的に情報開示することがインベストメントチェーン全体の持続可能性に寄与し、ひいてはGPIFの長期的な収益の確保につながると述べました。




【講演④】

ある大型機関投資家によるサステナブルファイナンスへの取組
ノルウェー中央銀行インベストメントマネジメント ガバナンス・コンプライアンス担当役員
カリーヌ・スミス・イエナチョ氏


 ノルウェー中央銀行インベストメントマネジメント(以下、NBIM)は約1.3兆ドルの資産価値を有するグローバルファンドであり、71ヵ国・9,000社を超える企業において株式を保有しており、それは世界の上場企業の1.5%の株式を保有していることである、また、NBIMにとって日本は第2の市場で約750億ドルの投資を行っていると紹介しました。そして、投資を行っている9,000社すべてに対し、人権や子どもの権利、気候リスク、生物多様性など、持続可能性に関するリスクと機会について明確な期待を持っていると語りました。

 NBIMは、よい株主・支える株主であることを目指し、原則に基づいた透明性のある株主行動を行うべく、主に対話と投票を通して投資先企業に積極的に関与していると説明し、2020年には12万件を超える決議に投票し、約3,000件の株主総会に参加、企業の事業内容が期待に沿っているか毎年評価しているとしました。

 ここ数年、多くの企業が気候変動問題への取組について力強く報告しているが、それ以外の社会問題における情報開示量はまだまだ不足していると指摘、そのうえで、最終的には報告書の作成が大きな課題なのではなく、適切な持続可能性戦略を持ち、それをリスク管理とガバナンスの手順に組み込み、検証してフォローアップすることが企業にとって大切であると述べました。




【講演⑤】

サステナブル資産運用の最前線から
アクサ・インベストメント・マネージャーズ エグゼクティブ・チェアマン
マルコ・モレリ氏


 アクサ・インベストメント・マネージャーズは1兆ドルの資産を運用しており、日本市場では20年以上の投資実績があると説明したのち、「持続可能性」は企業の日常的なビジネスや運営の過程に組み込まれるべき概念であり、ESG関連商品への投資が増加しているのは投資家がESGをすでに必須であると考えているからだと述べました。

 ESGにはまだ共通の基準がなく、その統一を図る必要があると言及。現在は移行期にあり、多くの資産運用会社はESGの観点からどの投資先がベストプレーヤーとなるのか、今後の展開においてベンチマークとなるような環境を整備している企業はどこなのかを注視していかなくてはならないと語りました。

 その一方、ESGは資産運用業界にとって社会的進歩の最前線に立つまたとない機会であるとし、そのために今後はESGに関するあらゆることを測定・実証・監視するための指標についてより迅速かつ詳細に検討していかなくてはならないと指摘。そして、大切なのは持続可能性とESGという共有するメッセージを、資産運用会社が企業自身また投資商品において目に見えるものにしていくことだと述べました。




【講演⑥】

気候変動に関する日本銀行の取り組み
日本銀行 国際局兼企画局審議役、気候連携ハブ総括
中村 康治 氏


 日本銀行は2021年7月に気候変動に関する包括的な取組方針を公表、策定にあたっては中央銀行の責務である物価と金融システムの安定を念頭においたと言及しました。この包括的な取組は、具体的には「金融政策」「金融システム」「調査研究」「国際金融」「業務運営・情報発信」という5分野に分かれているとしました。

 1つ目の「金融政策」においては金融機関が自らの判断に基づいて取り組む気候変動対応の投融資をバックファイナンスする新たな資金供給オペレーションを導入するとし、2つ目の「金融システム」では気候関連金融リスクの把握・管理に関する金融機関の取組を後押ししていくと説明。3つ目の「調査研究」については、気候変動問題がマクロ経済や金融市場、金融システムにもたらす影響の分析を深めるとともに、情勢判断やリスク把握のためのデータ収集や分析手法の高度化を図るとしました。

 4つ目の「国際金融」に関しては、多国間協議への参画等を通じて気候変動への取組に貢献していくと表明し、5つ目の「業務運営・情報発信」では、日本銀行自らが気候変動への対応を推進するとともに、TCFDの推奨内容を踏まえた開示を行うなど対外説明を充実させると語りました。




【講演⑦】

世界が注目する日本のサステナブル経営への変革~投資家と企業のエンゲージメントの現状~
マネックスグループ カタリスト投資顧問株式会社 取締役副社長COO
小野塚 惠美氏


 日本では上場企業の多くがPBR1倍割れの状況にある中で、ビジネスモデルやビジネスポートフォリオの変革が望む企業も多いと指摘。投資先企業に行動の変化を促す対話を行うとともに、議決権行使や株主提案などの手法を用いながらサステナブル経営を後押しするのがエンゲージメント投資であり、サステナブル投資の一つの形であると解説しました。

 アベノミクスの下で始まったコーポレートガバナンス改革により、企業の経営者は株主との対話により前向きになっている今の状況は、経営陣との対話を重視し、企業の変革のカタリストとなるエンゲージメント投資には好機であり、日本におけるエンゲージメント投資とサステナブル経営への変革に世界の注目が集まっていると述べました。

 エンゲージメント投資の成果については、2020年6月25日に1万円で設定した「マネックス・アクティビスト・ファンド」が2021年10月7日時点で1万3,090円となり、30%以上の成果を上げることができていると報告。今後も日本の豊かな未来と顧客の資産形成の両立による、個人と社会のサステナビリティの実現を目指して活動していくと語りました。




【講演⑧】

サステナブルファイナンスに関する東京都の取組
東京都 政策企画局 国際金融都市戦略担当局長
児玉 英一郎


 東京都は、2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指しており、そのため2021年1月には2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減するカーボンハーフを目指すと表明したことを紹介しました。

 2021年6月、東京都はグリーンファイナンス発展に向けた戦略的な取組である「Tokyo Green Finance Initiative(TGFI)」をとりまとめたと述べ、TGFIにおける施策の方向性として「グリーンファイナンス市場の発展」「グリーンファイナンスにおける参加プレーヤーの裾野拡大」「環境施策・環境技術の情報発信とESG人材の育成」の3つをあげました。

 2017年に策定した「国際金融都市・東京」構想を2021年秋に改訂、そこでは「サステナブル・リカバリーを実現し、世界をリードする国際金融都市へ」を大きな目標に掲げ、サステナブルファイナンスの推進を施策の中軸に据えると説明し、その施策の柱は、「Tokyo Green Finance Initiative(TGFI)の推進」「金融のデジタライゼーション」「多様な金融関連プレーヤーの集積」の3つであると述べました。


パネルディスカッションの内容は、「2021年度『東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム』開催報告(下)」で紹介します。


制作:株式会社時事通信社 総合メディア局

東京都 政策企画局 戦略事業部 戦略事業課