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第14回

2021年度「東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム」開催報告(下)

 前回の記事(「2021年度『東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム開催報告』(上)」)に続いて、フォーラム最後のプログラムであるパネルディスカッションの概要をご紹介します。
 なお、当日の様子は こちらより動画で視聴いただけます。また、各ご登壇者の資料は プログラムページに掲載しております。





【ご登壇者】

モデレーター
フューチャー株式会社取締役/東京都国際金融フェロー 山岡浩巳氏
パネリスト
三井住友DSアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長兼CEO 猿田隆氏
リフィニティブ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 富田秀夫氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 経営企画部副部長プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高まり氏




【オープニング】

 モデレーターを務めるフューチャー株式会社取締役/東京都国際金融フェローである山岡浩巳氏は、東京が世界を代表するグリーンシティーとなるには金融の役割が重要であると述べました。また、世界のESG金融の規模は現在35兆ドル(日本円にして3900兆円相当)に達しており、今後も大きく拡大するとの予測を紹介しました。そのうえで、ESG金融にはなお多くの課題があるとも指摘しました。その1つとして、ESGを巡る評価の方法論や基準が確立されていない中、評価は海外を中心とする評価機関がそれぞれの視点から非財務情報などに基づき行っている状況であり、機関によって評価に大きなばらつきがあることを指摘しました。
 また、近代以降の自由主義経済は化石燃料の大量採掘によって発展を遂げてきたが、脱炭素化やグリーン化の潮流は、このような自由主義経済へのチャレンジとも言えると述べました。そのうえで、統制経済によって脱炭素化やグリーン化を実現するのではなく、自由主義経済のダイナミズムを活かしながら、人類にとって真に望ましい資源配分を実現する必要があると指摘しました。この中で、もともとリスクとプライシングを通じた資源配分への貢献を本源的機能とする金融には、新たな機能が期待されており、そうした金融機能の発揮は、地球や人類、経済の繁栄にとって極めて重要であると強調しました。


【テーマ①】

世界そして日本におけるサステナブルファイナンスの動向


 ロンドン証券取引所グループのグループ企業であるリフィニティブ・ジャパン株式会社代表取締役社長の富田秀夫氏は、サステナブルファイナンスでは資金調達企業や投資家がフォーカスされることが多いが、サステナブルファイナンスの進展にはそれ以外のプレーヤーが果たす役割も非常に大きいと指摘し、その多くに関与しているロンドン証券取引所グループの事業を紹介。イングランド銀行元総裁で国連気候変動対策・ファイナンス担当事務総長特使を務めるマーク・カーニー氏が主導する「グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ」には同社CEOも積極的に関与していると述べました。また、脱炭素化やグリーン化における評価基準の統一については今後の議論で進展が見込まれるが、もう1つの課題として統計データの未整備があり、日本もカーボンニュートラルに向けて2030年の中間目標を設定しているため、2~3年前のデータではなく、リアルタイムに近い信頼できるデータを基に議論を進めていくことが重要であると語りました。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社経営企画部副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジストの吉高まり氏は、富田氏が触れた「グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ」には銀行や保険会社など88兆ドル(2021年7月時点)の資産規模を有する金融機関がコミットし、2030年までの中間目標も設定することになっており、さらにG20に対しても提言を行っていると述べ、サステナブルファイナンスは確かに非常に範囲が広いが、こうした動きを見ると脱炭素化がその中心にきていると考えられると分析しました。また、同じくマーク・カーニー氏の主導によるカーボンクレジットに関するイニシアティブも立ち上がっており、カーボンクレジットは今後日本にも影響を及ぼすだろうと指摘。欧米ではすでにさまざまな投融資先にグリーンマネーが流れており、それをいかにして日本、そして東京に呼び込むかが最大の課題であると述べました。

 三井住友DSアセットマネジメント株式会社代表取締役社長兼CEOである猿田隆氏も世界市場はサステナブルファイナンスで非常に大きく動いており、それを東京というマーケットにどうやって持ってくるかが大きな課題だという認識を示しました。次に、世界の金融市場における日本のシェアについて解説し、株式については1989年の40%から2021年9月時点では6.2%まで縮小し、米国S&P500の時価総額は1989年から2021年の間に12倍成長しているのに比べ東証一部は1.3倍の伸びにとどまっており、グリーンボンドなどが発行される社債のマーケットは世界の2.5%のシェアであるなど、日本のマーケットはこの30年ほど成長していないと分析。東京を国際金融都市にするには、東京をいかに魅力的なマーケットにするかが最大の課題であると指摘しました。


【テーマ②】

ESG金融をめぐる企業の情報開示とその評価に関する課題


 富田氏はまず自社におけるESG情報の基本的な収集方法について説明を行い、さらに評価を受けている企業が自らデータを提供できるツールも開発・提供し、同社が収集したデータを企業自らが修正・加筆したり、新たな開示項目を追加したりすることで、データの拡充や信頼性、更新頻度を向上させる取組を現在進めていると紹介しました。また、山岡氏が冒頭で述べた通り、評価機関によって評価の相関が低いという厳しい指摘は多いとし、その理由としてESG自体が非常に幅広い概念であるため評価基準の統一はなかなか難しいと指摘したうえで、企業における情報開示の進展により信頼できるデータの拡充が進んでいることから、現在の取組が進めば相関性は高まってくるのではないかという見通しを示しました。

 猿田氏は、債券の格付けが登場した際は格付け機関も格付けされる企業側も相当の期間において試行錯誤しながら最適な手法を模索していったと述べ、ESGにおいては各評価機関が何を重視し、どのような企業情報を収集・分析して、このような評価に至ったのかというプロセスを投資家にも企業にもきちんと説明することが重要であると訴えました。また、債券の格付けの手法についても相当の試行錯誤があったことを鑑みると、非財務情報を定性的に評価・判断するESG評価の手法が確立するまでにはさらなる時間が必要になると想像しているとしながら、現在の取組と努力を続けていくことで、いずれはある程度の基準ができ上がってくると考えていると述べました。


【テーマ③】

地方や中小企業など幅広い分野でESGを促進するには


 吉高氏はまず地方における講演などではESGは地域の起爆剤の1つになる可能性があるという話をしていると述べました。一方で、金融機関においては何がESGなのかを判断しかねる部分もあると思われるとしたうえで、経済産業省の「グリーン成長戦略」に掲げられている14の重点分野などを参考にしながら、まずは投融資先に関してどの企業にESGの種がありそうかを整理し、それに基づいて情報開示を進めていくのが最初の一歩になるのではないかと解説。また、国際的なイニシアティブである「Partnership for Carbon Accounting Financials」に加盟し、カーボンプライシングを使って資産を評価する金融機関も増えており、こうした新たな情報を取り入れながら自社のポートフォリオに関する情報開示の準備を推進してほしいと語りました。


【テーマ④】

ESG金融において東京がなすべきこととは何か


 富田氏は、東京都は「国際金融都市・東京」構想の取組の一環として、2017年12月に東京都とシティ・オブ・ロンドンによる「東京都とシティ・オブ・ロンドン・コーポレーションの交流・協力に関わる合意書」を締結し、金融分野のイベント、金融教育プログラム、ESG投資・グリーンファイナンスなどの連携を図っているとしたうえで、世界中にはこうした取組が数多くあるが、東京都とシティ・オブ・ロンドン・コーポレーション間では他と比べてもアクティブな取組が行われていると紹介。そうした意味でも、英国やロンドンとの連携・協力は東京にとって大きな力になるのではないかと述べました。

 猿田氏は、日本はGDP世界3位であり、世界屈指の東京証券取引所を有し、多様な投資先も存在するマーケットだが、前述したようにこの30年間ほどマーケットが成長していないのが最大の課題であると述べ、これを脱却して成長するマーケットへと変革を遂げることが最優先だと強調しました。そのうえで、サステナブルというと何十年も先のことと捉えがちだが、足元の成長がなければ将来の存続もありえないと言及し、そのためにわれわれ投資家は企業がコーポレートガバナンスの強化などこれまでの取組を継続し、経営改善と成長を間断なく続けるという意識を持って尽力するようコミットメントすることが重要であると語りました。


 吉高氏は、猿田氏が述べた日本のマーケットの成長において、「グリーン成長戦略」がその一翼を担ってほしいと期待を語ったうえで、特に東京は脱炭素に関する技術を有している企業が多く、また脱炭素について日本の特許出願数は世界一といわれているが、その優位性を成長戦略にまだ生かし切れていない反面、そこに潜在的な可能性があると指摘しました。また、気候変動におけるリスクの1つである「物理的リスク」、すなわち災害に対して強靭な都市であることも国際金融都市になるための重要なファクターであると語り、そうしたことも「国際金融都市・東京」構想の中でアピールしたほうがよいのではないかと述べました。


【クロージング】

 最後に、モデレーターを務める山岡氏が、気候変動は災害増加による財政支出や税負担の増大をもたらし、そして何よりも人びとの生活を脅かすという意味で、東京などの大都市は気候変動問題の大きなステークホルダーであり、自らの問題として解決に取り組む必要があると述べました。そして、金融には従来型のリスクとリターンの判断を超える、より大きな役割が期待されていると強調しました。サステナブルファイナンスを発展させていくためには、金融が従来のリスクを超えた複雑なリスクを評価し、プライシングを通じて資源配分に貢献するとともに、プロジェクトの評価と情報開示という循環を回していくことが、よりよい資源配分の実現と都民の生活向上につながっていくだろうと締めくくりました。





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