第6回
本特集記事の第1回、第2回でお伝えしたとおり、世界では近年、サステナブルファイナンスが急速に拡大しています。例えば世界のESG投資残高は、2016年から2018年に34%増加し、グリーンボンド発行額は2019年に前年比51%増の2,589億ドルに達しました。世界がコロナ禍に見舞われた2020年にも、サステナブルファイナンスへの注目は一層高まり、第3回の記事で述べたとおり、「グリーンリカバリー」や「サステナブル・リカバリー」がコロナからの経済復興のキーワードとなっています。
日本でも、2020年はコロナ禍でマイナス成長となりましたが、サステナブルな未来に向けての重要な年となりました。理由として、政府が本格的な脱炭素政策に舵を切ったことが挙げられます。2020年の10月末、菅総理が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、12月25日には「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表されました(i) 。同戦略は、産業構造や経済社会の変革を通じて2050年にカーボンニュートラルを実現することを目指すものであり、具体的な実行計画や重点分野の工程表が示されています。脱炭素を成長の機会ととらえ、経済と環境の好循環を作ることで、2050 年には年額 190 兆円程度の経済効果が見込まれるとされていますが、多くの抜本的変革や技術革新が必要とされ、産業界にとっては非常にインパクトの大きい政策です。2020年は日本の脱炭素元年でしたが、2021年から、脱炭素化に向けた動きが加速化・本格化していくと見込まれます。
上記戦略では、分野横断的な主要な政策ツールとして、「予算」「税制」「規制改革・標準化」「国際連携」と並んで、「金融」が挙げられています(以下図表参照)。また、「税制」の側面でも、脱炭素化に向けた民間投資を喚起するための施策が検討されており、サステナブルファイナンスの果たす役割が期待されています。これらの金融政策のベースになっているのが、2020年9月に経済産業省が発表した「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」(ii) であり、 SDGsやパリ協定の目標の実現に向けては、①低炭素化・脱炭素化を進めていく「移行」の取組(トランジション)、②再エネ等、脱炭素化を図る取組(グリーン)、③革新的イノベーションの取組、それぞれに対するファイナンスを同時に進めることが重要とされています。グリーン成長戦略においても、「トランジション」「グリーン」「イノベーション」の3つの視点で金融の施策が検討されており、また、拡大するESG関連の民間基金を活用して3大メガバンクの環境融資目標約 30 兆円も含め、カーボンニュートラルに向けた取組にこうした ESG 資金を取り込んでいくといった方針も明記されました。
以上、脱炭素化に向けた国内の動きを紹介しましたが、コロナ禍において、ESGのS(社会面)の資金需要も拡大しています。国連グローバルコンパクトによると、2020年の世界のソーシャルボンドやサステナブルボンドの発行額は1000億米ドルを超え、多くがCOVID-19への対応に資金提供されていると言います(iii)。国内のグリーンボンド、サステナビリティボンドの発行実績を見ても、2020年には特にサステナビリティボンド等、環境・社会的課題解決に資する債券の発行の伸びが顕著でした(以下図表)。
今後、コロナショックからの経済復興と脱炭素化への動きが本格化していく中、サステナブルファイナンスの役割はますます重要となっていくでしょう。