第16回
前回の記事(「2021年度『都民向け金融セミナー 基礎からわかる金融の知識とサステナブルファイナンス』開催報告(上)」)に続いて、セミナー後半の「サステナブルファイナンスの基本・投資の実践」の概要をご紹介します。
当日の様子はYouTubeで視聴いただけます。また、各ご登壇者の資料も掲載しております。
株式会社日本総合研究所創発戦略センター シニアマネージャー
橋爪 麻紀子氏
■ サステナブル・ファイナンスの基礎知識
サステナブルファイナンスとは、地球環境の保護や人権問題の解決などを推し進め、持続可能な社会に転換するための金融のあり方です。持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定によって世界が環境問題や社会課題に目を向け始めたことを背景に、クリーンエネルギー事業への投資や、労働環境の改善に積極的に取り組む企業への融資といった、環境や社会をよりよくするための金融が求められる時代になってきました。また、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じた世界的な経済活動の停滞も働き方の変革や環境汚染の一時的な回復などをもたらし、従来の企業活動を見直すきっかけになりました。
サステナブルファイナンスには、投資・融資・債券といった伝統的な資金調達からクラウドファンディングやインパクト投資といった新しい金融手法が含まれ、多角的に環境問題や社会課題の解決とつながっています。これらの問題や課題の解決策となる新たな製品やサービスを生み出し、市場を活性化させる源泉としての効果が期待されるとともに、環境汚染やジェンダー格差など、これからの企業の成長を阻害しかねない従来の商習慣を改めるきっかけとしてもサステナブルファイナンスは、注目されています。
■ ESGの視点で考える
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点から投資先を決める投資方法であり、これらの視点から商品やサービスを選ぶ消費者や、投資先企業を選ぶ投資家の増加を受け、企業もESGへの配慮を考えるようになっています。企業や社会のあり方は、投資家による株の売買や消費者による不買運動、4R(Reduce、Reuse、Recycle、Refuse)運動、シェアリングなどの意思表示の影響を受けて変化するものです。
そうした消費者の意思が反映された顕著な例として、児童労働や強制労働を背景に不買運動が起きたチョコレートやアパレルの事例があります。消費者からの反対の声を受けて、労働者を守る認証制度ができたり、仕入先への配慮を行う企業が続出していたり、個人の投資や消費行動が企業や社会に与える影響は大きいのです。
一方、SDGsやESGの意識の高まりとともに増えてきたグリーンウォッシング、SDGsウォッシングに対しては注意が必要です。ホームページに貼られたSDGsのロゴや、環境保護を想起させるパッケージなど、見せかけだけの対応ですまそうとする企業に流されることなく、実際の取組や過去の実績から注意深く判断して投資や消費行動につなげてほしいと思います。
株式会社丸井グループ 町田店店長(tsumiki証券株式会社 前CEO)
寒竹 明日美氏
■ はじめてさん向け! 投資信託の選び方
投資信託とはお客様に代わってプロが国内外の株式や債券などの金融商品に投資するサービスです。100円という少額からでも投資を始められる、金融商品を組み合わせて分散投資することでリスクを軽減できるなどのメリットがあり、投資信託は初心者の方にとって心理的ハードルが低い金融商品です。
日本で販売されている投資信託の数は約6,000本と膨大であるため、初心者が投資信託を始める際には、まず①金融庁が定めた基準を満たす「つみたてNISA」の対象商品に絞ることでリスクの分散や運用の安定性を確保し、次に②投資する地域や運用方法、コストなどを比べて自分の価値観に合ったものを選び、最後に③運用の情報を分かりやすく発信してくれる運用会社で購入するという3ステップをお勧めします。
投資信託を購入する際に必ず交付目論見書を参照してほしいと思います。確認するポイントとしては、①その投資信託が目指す目的や投資先などの特徴、②投資で生じるリスク、③運用期間や純資産額の推移といったこれまでの実績、④手続きの方法や手数料の額の4つをあげられます。きちんと理解・納得して購入することが大切です。
■ 投資にもサステナブルな視点を!
従来、企業を判断する基準は財務情報が中心でしたが、近年では環境問題や社会課題に関する取組などを記した非財務情報も重要な判断基準となってきています。2020年には約600社の日本企業が財務情報と非財務情報を合わせた統合報告書を開示するなど、情報開示に積極的な企業が増えてきています。一方で、ESGに配慮していることを装っているだけの「名ばかりESG投資信託」が増えてきているので、企業のホームページや交付目論見書を注意深く確認することで騙されないようにしないといけません。
情報開示が進んでいる背景には、次世代を担う若者たちの環境や社会に対する問題意識の高さもあります。若い世代は特に利益だけを追求するような商品やサービスに対する警戒心が高い傾向にあることから、ESGに配慮しない企業活動を続けていくことや、情報を不透明にしておくことは今後一層大きなリスクになっていくだろうと考えています。
最後に、ESGの視点を取り入れながら、企業は成長を続けることができるのかという疑問があると思いますが、丸井グループの株価の推移をからわかるのですが、中長期的な視点から見るとESGに対する取組は企業価値と連動しています。すべての企業に当てはまるわけではありませんが、ESGに配慮した取組と企業の成長のつながりはあると思います。
トークセッションでは、講演を行った橋爪氏や寒竹氏に加え、前半のプログラム[投資の基礎知識]から引き続いて登壇した武藤十夢氏が聴講者の皆さんからの質問に答えました。
■ テーマ①企業の環境問題に対する配慮の度合いを測るには(寒竹 明日美氏)
企業が環境に与える負荷は業種や業態ごとに異なるうえ、配慮の度合いを測る基準がいくつもあるため、一概に判断することは難しいですが、年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用している基準が1つの尺度になると思います。GPIFが投資先を選定する際に採用している複数のESG指数の中から環境についての指数を見れば、その企業がどのくらい真摯に環境問題に対して取り組んでいるのかを判断する手がかりになります。
■ テーマ②グリーンウォッシングや「名ばかりESG投資」を見極めるコツは(橋爪 麻紀子氏)
企業のイメージや商品パッケージの見た目だけで判断せず、信頼できる情報元から事実を確認する心がけが大切です。昨今では多くの企業がホームページや統合報告書などで情報を開示しているのでデータや数字などから客観的に判断してほしいと思います。関連するデータや実績が見つからない場合には判断を保留にするなど慎重な対応が必要です。
■ テーマ③ESGの視点で投資する人を増やすには(武藤 十夢氏)
環境や社会の問題を自分事として捉えることがESG投資を考える第一歩になると思いました。どうなるか分からない未来のことは実感が湧かないかもしれませんが、自分のライフプランに照らし合わせて考えれば、守っていくべき自然や目指すべき社会のあり方が見えてくるはずだと思います。思い描いた未来を実現させる手段として、また自身の資産形成という観点からもぜひ積極的に投資について考えてほしいです。
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